[インタビューズ]作家・ライター 奥野宣之さん 4/4

[インタビューズ]作家・ライター 奥野宣之さん 4/4

奥野宣之さんインタビュー、第3回の続きです。古墳は天皇のルーツを示す遺跡でもあり、過去にさまざまな扱いを受けてきました。今も抱えるいくつかの問題があります。(全4回)

古墳という日本のルーツをどう守るのか

今回訪れた今城塚古墳は、学術的に継体天皇陵と認められているのに宮内庁は認めていないんですね。

「この古墳が○○天皇の陵墓だ」という宮内庁の治定は江戸時代から明治時代に定められて、どんな新発見があっても修正されていません。宮内庁は太田茶臼山古墳を継体天皇陵としていますが、放射年代測定で没年より80年も前にできたと判明しています。この今城塚古墳は531年という継体天皇の没年と造営年が一致すること、文献から場所が合っていることから真の継体陵といわれています。

もし宮内庁に「こっちが継体陵では」といったら「継体陵だという証拠を出せ」といわれるでしょう。放射年代測定の話をすると「偶然かもしれないので文献がほしい」といわれるはずです。たとえば出土した鏡に名前が彫ってあるとか、確実な証拠がほしい、と。

それは証明が難しいですね。

宮内庁が管理している陵墓は、玉砂利が敷かれて拝所がつくられ、ここが天皇陵だと表記されます。でもその中には本当の天皇陵じゃないものもありそうなんですよ。本物の天皇陵がゴミ山になって、偽物が祀られているかもしれない。まだ明治から140年しか経っていないので修正はきくはずです。国民的な議論をしながら早めに修正してほしいですね。

また古墳の管理にも問題があります。宮内庁書陵部が日本中の陵墓と陵墓参考地などを管理しているんですが、天皇陵の中には「石垣が崩れそうなので近づかないでください」と札が出ているところがあります。

天皇陵といえば日本そのもののルーツなんだから、しっかり保全してほしい。今は禁足地になっていますが、保存につながるならお金を取って人を入れてもいいと思いますよ。

明治より前は誰が守っていたんですか。

中世以降、あまり古墳は守られていなかったようです。どの時代にも組織的な盗掘グループや個人的な古代史マニアがいて、彼らにどんどん盗掘されていきました。でも盗掘のおかげで古墳の内部がわかったという側面があります。盗人を捕まえたら「中はこうなっていました」とわかるんです。

江戸時代後期に古墳マニアである蒲生君平が出てきて、天皇陵の研究が進みました。彼は尊王論者だったので天皇のルーツを詳しく調べようと思ったんですね。『日本書紀』などの古文書と格闘しながら天皇陵を研究し、『山陵志』という書物にまとめています。

この研究を引き継いだ明治政府は、神話時代の天皇陵は実在しないはずなのに「この辺にないとおかしい」ということで勝手に天皇陵を決めてしまいました。なかでも神武天皇陵は自然の塚だという説もあるくらいで、考古学的には何の面白みもありません。ただ近代天皇制や尊王論を研究するために重要な場所だとは思います。

幕末の尊王家たちが荒れ果てた天皇陵を見て「これどうにかしようぜ!」と幕府にお金を出させたのが「文久の修陵」といわれる一大プロジェクトです。めちゃくちゃに荒れていた天皇陵がきれいになりました。玉砂利や鳥居、拝所が整えられたのもこのときです。僕たちが見ているのは修陵の成功図なんです。

明治以後は守る気運が高まってきましたか。

戦前は天皇制の下で大切にされていたようですが、戦後になると壊された古墳もいっぱいありますよ。宅地造成で全国のトップ10に入るような古墳も消えました。開発に邪魔だと調査せずにつぶしてしまう、それくらい無関心だったと当時の記録にあります。

石室や副葬品は考古マニアに運び出されたり、スクラップ業者や骨董屋に売られたり、本物だとわかるといい値段がついたそうです。奈良や堺など、庭から遺跡が出るようなところはかえって考古学に興味がないともいいます。

古墳好きとしてはやっぱり天皇陵の中を見たいと思いますか。

考えるとワクワクしますね。未盗掘の古墳はタイムカプセルですし、人骨や石室がそのまま出てきます。その中に今とまったく違う政治体制がある日本の最初の姿があるわけです。今と違うけれど、確実に今とつながっている。それが面白いですね。

高松塚古墳の石室は盗掘されずに完全密封で見つかったんですよ。でも1600年ぶりに空気が入ってカビが生えてしまった。だから未盗掘の古墳は違う意味で発掘しにくいようですね。掘っても破壊につながることがわかっているのですから。今はファイバースコープなどの技術で中を見ることができます。

考古学上のニュースはたまに新聞の一面を飾りますね。

本当は、もっと古代史に興味を持って自分たちのルーツについて国中で話をしないといけないんですよ。古墳は日本の財産で、これだけ残ってくれたわけですから無視するのはよくない。無関心だと予算もつかないし、保全が行き届きません。

国営の古墳博物館があってもいいわけです。土地ごとに古墳記念館のようなものは100や200あると思うんですが、国がまとめた古墳のミュージアムはまだありません。国体のルーツなのだから日本人はもっと考えるべきでしょう。

僕は、将来古墳が「教養」というか「大人のたしなみ」になればいいと考えています。古墳というと学問的なアプローチが必要な難しいものと思われがちですが、そのイメージを変えたい。○○古墳でこんな発見があった、というニュースが取り上げられるのではなく、人がクラシック音楽を語ったり絵画を愛でたりするように古墳そのものを味わう文化をつくりたいですね。これからも古墳を見続けたいので、本でもイベントでも、何か役に立てることがあれば参加したいですね。

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今回、古墳ツアーまでありがとうございました! ノート作家の奥野さんとは違う一面を垣間見ることができました。

「古墳が大人のたしなみになればいい」というお話は新鮮でした。行って登って空気を吸うと、やはりその間は歴史や当時の風景を思い浮かべます。ちょっと一服するように古墳に登る、というレジャーが生まれるかもしれませんね。古墳は本州、四国、九州にたくさん残されています。皆さんの近所にもきっとありますよ。

奥野宣之 公式ウェブサイト

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奥野宣之さんインタビュー  /  /  / 4

【インタビューライター 丘村奈央子】
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