[インタビューズ]作家・ライター 奥野宣之さん 3/4
- 2013.08.27
- 更新日:2020.06.06
- 丘村インタビューズ
奥野宣之さんインタビュー、第2回の続きです。350年間という長きにわたって続いた古墳時代。しかし文献が少なく、当時の人がどんな暮らしをしていたのかほとんどわかりません。奥野さんの視点から時代を読み解いてもらいました。(全4回)
古墳とは、死を考え抜いた末の一つの答え
古墳時代については日本史で習いましたが、350年と聞いて改めて長さにびっくりしました。
350年あれば政治体制やインフラを整えられるんですよ。都や道路を整備をしてもいいし、上下水道を引いてもいい。中国や朝鮮という先輩もいるわけですし。同じ頃、中国ではどうやって国を繁栄させるかを考えているのに、日本では古墳をつくり続けていました。
古墳は死ぬためのカルチャーですよね。古墳をつくっても作物が収穫できるわけではないし、軍事的に役立つわけでもない。でも当時の人は国家財政の大部分をこれに使っていたはずなんです。前方後円墳だけでも何千基もつくりまくって、日本中に押されたハンコのように残っている。こんな350年間続いた共同体のシンボルについて何もわからない、というのがすごいです。
古墳を歩いている間、ずっと当時の人について想像していましたね。
日本人の先祖はほとんどが古墳づくりに関わったのではないでしょうか。当然、僕たちと同じような社会生活と分別があり、損得勘定を持っていた。そのうえで強烈に「つくりたい」という気持ちがあって古墳をつくった。それはなぜなのか、いつも考えます。
古墳には当時の死生観が詰まっていると思います。人間は死から逃れられないし、医学がいくら進んでも必ず死と向き合わなければいけません。古墳は死ぬことを考え抜いた人たちの一つの答えです。350年の間、時代の権力者があらゆる財を使って選んだ死に方です。効率が悪くいわば壮大な無駄遣いなのですが、それだけ究極に芸術的な国、文化的な国だったのかもしれません。
こういうものをつくって喜んでいた人たちが日本人のルーツなわけです。ただの墓なら石碑や塚でもいいですよね。でも時間をかけて全国に何万基も古墳をつくり、怪しげな埴輪と一緒に祭祀をする文化があった。おそらく古墳ゼネコンみたいなものがあって、設計士や建築家、埴輪づくりのプロ集団が活動していたはずです。僕たちはこんな精神文化を持った先祖がいるのを誇りにしていいと思いますよ。
日本中で巨大なお墓を手間暇かけてつくっていた時代なんですね。古墳にはどんな役割があったんでしょう。
僕たちは仏教的な文化や常識に染まっていますからね。古墳時代のような仏教伝来以前の世界について今の常識で考えてはダメだと思います。呪術によるスピリチュアル国家があったかもしれないし、専制的な大きな権力があったかもしれない。カルト宗教のようなことを国全体でやっていた可能性もあるわけです。
ある専門家は「当時の日本にはゆるやかな首長連合があって、仲間意識を持つために前方後円墳をつくろうと取り決めたのではないか」と仮説を立てています。前方後円墳をつくっていれば同じ国のメンバーなんだ、という意識ができる。実は、初期古墳は関西と関東で同時期にバラバラとつくられています。どうしてこんなことができるのかを考えると、やっぱり地方の豪族、首長が集まって示し合わせたからじゃないかというんですね。
大和政権につながる、国家のもとになる集まりですか。
そうですね。古墳時代のどこかで日本という共同体ができたのは間違いありません。この日本という国のルーツを知りたいと思ったら古墳しか残されていないんです。
僕たちは「国」というと近代国家や封建国家、律令国家を考えます。でもこの時代の国の形はどれにも当てはまりそうにない。調べていくと視野が広がって思考がのびのびしますよ。今の常識が揺さぶられる感じがします。
現代の価値観とはまた違う世界なんですね。
僕たちは最先端にいる意識がありますが、実際のところどうなんでしょうね? 過去が遅れていて今が進んでいるという考え方自体が怪しい。たしかにスマホをつくるような技術は現代のほうが進んでいますが、精神文明や宗教観は古墳時代のほうがすごいかもしれませんよ。
合理的に考えることは誰にでもできるんです。でも人生は非合理で、いきなり理由もなく終わってしまうことがある。合理主義だけじゃ回らないですよね。古墳はそういう非合理なものの象徴じゃないでしょうか。
古墳をつくっていた豪族は自分のお墓ができるのを見ながら何十年も暮らすわけです。完成して「よし、死ねる」と思える。古墳づくりは死ぬための前向きな計画で、すごくいいことだと思うんですよ。人間はいつか死ぬので嫌がっていても仕方ありません。
現代は「お金にならないことはやらない」という世界観になってしまっているのが怖いですね。古墳はお金を生まなくても必ず何かメリットがあってつくられたはず。そうでなければ民衆から反逆が起きるはずです。
1500年前の人はサルではなく、僕たちと同じように一定の知性レベルを持った人間です。その人たちが短い生涯の大部分をかけてつくったのが古墳なんですよね。今こそ、古墳が支えた精神文化を見直す時期だと思います。(続く)
【インタビューライター 丘村奈央子】
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