[インタビューズ]作家・ライター 奥野宣之さん 2/4
奥野宣之さんインタビュー、第1回の続きです。今城塚古墳を見学後、場所を移して奥野さんの古墳歴をお聞きしました。そもそもなぜ古墳に魅せられたのでしょうか。(全4回)
窓から古墳が見える生活が始まった
古墳に惹かれるようになったのはいつ頃ですか? 縄文や弥生の遺跡ではなく「古墳」を選ばれたのはなぜ。
大阪の泉南出身なので阪和線をよく使っていました。乗っていると窓から古墳が見えるんです。昔からそれを眺めているのは好きでしたね。
20代後半で結婚して古墳のそばに引っ越しました。狙って選んだわけではないのですが、古墳が見える部屋は素敵だなと思いました。緑が映えていいところなんですよ。お墓という感覚はないです。あるのが当たり前すぎて、近所では存在が無視されているくらいです。
家を出ると目の前に古墳があります。毎日ただのオブジェクトとして見ていたのが、だんだん気になってきました。墓なのに誰の墓なのかわからない。なんであんな形なのかもわからない。石室があって死者を入れたことは間違いないけれど、そのとき弔いの概念があったのかは怪しい。「何もわからない」というのが気持ち悪くて、積もりに積もった興味があふれ出したのが数年前です。そこから古墳を巡るようになりました。
縄文時代や弥生時代の遺跡は残っているのが穴だけですよね。跡から柱や建物を推測します。墳丘だと当時つくられたものがそこに残っている。古代史の築造物なのに本物に触ることができるわけです。こんな素晴らしいことはないなと。
古墳巡りには僕にとって趣味と実益を兼ねています。自然観察やハイキング、水辺、野鳥、巨樹、歴史のようにわりと好きな要素が詰まっている。あと、人に会わないのもいい。管理者や観光客に気を遣うことなく誰とも会わずに帰って来られるのは魅力です。
本や知識から古墳に興味が出たのではなく、古墳そのものから始まっているんですね。
もう家の前にあるので、本で調べるより行ったほうが早かったんです。近所に3、4つ古墳があったのでそこから行きました。
サッカーや野球だと、まず好きな選手をつくりませんか? この選手がいいなと思ったら歴史や詳細を知りたくなる。知識が増えるともっと楽しめる。古墳も同じです。1つ知ると基準ができます。この古墳より古いとか新しいとか、大きさはどうだとか。実際に行ってわからないことを本で調べて、徐々に面白がり方がわかってきました。
新聞ではしょっちゅう古代史の発見が記事になっています。一般向けの書籍は年に4、5冊出ます。過去の基本的な文献を押さえて最近の情報をチェックしていたら、古代史好きな人と「こないだのあのニュースは……」と共有できる。ゲームだと10年遊び続けるのは難しいですが、古代史は一生続けられる娯楽です。
ネットで調べると古墳マップがあるので、まず近所の古墳を探すといいと思います。行ってみるとイマジネーションがふくらみますよ。ここに土を盛った人が確実にいたわけですから。古墳は1つの作品です。僕はその意図をわかりたいと思う。
奥野さんは前方後円墳にこだわりがあるんですか。
やっぱり一番惹かれるのは前方後円墳です。方墳や円墳は誰でもつくれそうな形で、明確な意図を感じないんです。前方後円墳は明らかに「この形をつくる」という意志がありますよね。幾何学的ではないけれど説得力がある。
中国や朝鮮でも墳墓はありますが、前方後円墳は日本で発達しています。ピークは5世紀中頃の仁徳天皇陵じゃないでしょうか。全長約480mの大きさといい、三重の濠といい、葬られた大王の人望といい、デザインを含めてあれが最高峰だと思います。
そのかわり、仁徳天皇陵みたいなのをつくってしまったら後の人はモチベーションが下がったでしょうね。大きさで競うのはもう無理でしょう。古墳時代の後期になるとつくりかけでやめてしまった古墳が出てきます。
奥野さんが気に入っている古墳ベスト3はどこですか?
そうですね、まず仁徳天皇陵。宮内庁が天皇陵として認定しているので墳丘は入れません。面積が広くて秘境度が高い。街の中であれだけの禁足地があるのがすごいですね。
次は御廟山古墳。ここは応神天皇陵の第2候補として宮内庁から陵墓参考地に指定されています。地元の人が守っているのでとてもきれいな古墳です。森が深く、見る人によっては怖いと感じるほどの厳かな雰囲気があります。
あと、土師ニサンザイ古墳。大きさは全国で8番目ですが形が美しい。反正天皇の空墓として宮内庁が陵墓参考地に指定しています。2012年のレーザー測量で設計の確かさが明らかになりました。
マイナーな古墳に行くと管理が悪くゴミが捨てられていることがありますが、この3つは宮内庁が管理している入れない古墳なのできれいです。どれも堺市にあります。
大きな古墳の周りはよく陪塚(ばいちょう/小さな古墳)があります。家臣の古墳と考えられていて、「大王陵ではない」ということで登れるんです。人は全然いません。これはマニアの場所ですね。
これから「古墳に行こう!」という初心者向けの書籍はありますか?
読売新聞の元記者、矢澤高太郎さんが書いた『天皇陵の謎』(文春新書)はわかりやすいですよ。文化財担当の記者だったこともあり、古墳のすべてがよくまとまっています。
岩波新書から出ている広瀬和雄さんの『前方後円墳の世界』も好きです。古墳時代の日本国の全貌を描こうとした意欲作ですね。
(続く)
【インタビューライター 丘村奈央子】
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