[インタビューズ]リベラルアーツ研究家 麻生川静男さん 1/3
第7弾インタビューに登場いただくのは、リベラルアーツ研究家の麻生川静男さんです。先日、中国の歴史書を題材にした新書『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』を出版されました。『資治通鑑』という歴史書は全294巻、1万ページに及ぶ大著。しかし執筆中ずっとこの本だけに向き合っていたわけではなく、科学史に関する本や英語・フランス語の文献なども併読、研究しながら講演やブログでアウトプットされています。
こんな大量の文献をどうやって読みこなしていくのか、また、どうやって自分の知識に変えていくのか。「読書」について一度お聞きしたいと思っていました。(全3回)
本に独自の“外部記憶”をつけて読む
——以前に受けた講座では何百ページもある文献がいくつも紹介されて驚きました。どんな方法で本を読んでいるのですか。
私はいつも、本を裏からめくったところへメモを5枚くらい糊づけしています。紙は選ばす、ノートやカレンダーの残りの裏紙を使っています。読みながら気になった文章のページと要約をここに書き写すんです。あとで「あの本に書いていたはずだ」と思っても、本全体をめくって探すのは大変でしょう。このメモだったら5枚めくればすぐ見つかります。あとで探したくなる内容ならだいたいここへ書き写しているはずなので、メモの情報からページを辿って、本文を確認します。
▲カバーは外し、独自の「外部記憶」をつけて読む
私はこのメモを「外部記憶」と呼んでいます。記憶力に自信がないのでこれがないと本の内容を自分のものにできませんね。自分の意見も書きますがもっぱらインデックス代わりです。見返すことを前提にメモを作っていますが、全然見返さない本もあります。
メモの左上は線で区分けして、わからなかった単語や漢字、気になった項目などがあったらページ番号を書いておき、家に帰ってから意味を調べます。よく辞書を引きながら読む人がいますがあれでは時間がかかってしまう。わからない単語があっても推測しながら読み進めて、あとでまとめて調べるほうが効率的です。
——「あの本にあったな」という見当はだいたい合っているんですか。
何となく読んだときの感触とか、ぼやっとしたイメージは残っているんですよ。手に持ったときの本の感触やだいたいのタイトル名を覚えていて「こんな本にこのような情報があった」と思い出せます。だから私の場合、現物がないとダメなんです。
今、東京と大阪に家があって、本は合わせて1万冊くらい持っています。東京の家には「西洋の間」と「東洋の間」があるんですよ。
——おお、「西洋の間」、「東洋の間」。
6畳の部屋を西洋専門の図書室にして、そこは「西洋の間」。4畳半の部屋は東洋専門にして「東洋の間」。本棚も分野別に、たとえば哲学、科学史・技術史、儒教、イスラム関連などと分かれているんです。だから探したい本があると該当する棚から20冊くらい出してきて、パーッと「外部記憶」をチェックすればだいたい見つかります。
——自宅に図書室があるなんてすごいですね! 本は一目惚れで買っていくタイプですか。
そうですね、今読むかわからないけれど買ってしまうことは多いですね。すぐ読むときもあるし、読み終えるまで5年10年かかることもあります。買ったあとは本を読みたくなる「発情期」を待っているんです。たしかに買うときはそれぞれ思いがあって買うんですが、読みたくなる気持ちはちょっと違う。ずっと前から積ん読になっていた本のタイトルが急に気になって一気に読むこともあります。
——どのくらいのペースで読まれるんでしょう。
そこら中に本を置いているので10冊くらい並行しています。新書は読むだけなら早いと1時間半くらいで読めますが、メモを取りながらだと4時間くらい。こないだ読んだフランス語の科学史の本は3600ページあって1年半かかりました。毎日5時間とか7時間フランス語をやっていましたよ。格闘というより、本に遊ばれているといったほうが合っているかもしれません。
——先生でも挫折する本はありますか。
私は本にファクトを求めていて、小説のようなフィクションで目的がはっきりしない本には興味がわかないし、きっと読んでも面白くないと思っています。大正期の本だったら人力車は何円で何キロ走って1日何銭稼ぎました、というファクトがある本を読みたいですね。記録として当時の状況を意識的に残している本を選びます。だからファクトの記述が少なく、推論ばかりで観念的な二次情報の多い本だとつまらないですね。(続く)
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