[インタビューズ]リベラルアーツ研究家 麻生川静男さん 2/3

[インタビューズ]リベラルアーツ研究家 麻生川静男さん 2/3

リベラルアーツ研究家 麻生川静男さんへのインタビュー第2回(全3回)です。

20歳のとき、強烈に「学ばなければ」と思った

——昔から読書好きだったんでしょうか。

いやいや、20歳になるまであまり真剣に読書をしなかったですね。小学校のときはシャーロック・ホームズとかルパンをよく読んでいましたけどね。高校生では漱石とか江戸川乱歩はほぼ全作を読みましたが、他は名の知れている西洋の小説とか。読んでやろうという意識ではなくて、まあ面白いから読むか、と。

でも大学2年の冬休み、自分の知識の浅さを痛感する出来事がありました。ブログで「徹夜マージャンの果てに」というタイトルでも書いているんですが、同級生と議論をしているうちに、手持ちの弾、反論する知識がないことに気づいたんです。当時、多少は人よりマシな思考をしているとうぬぼれていた私は愕然としました。

工学部に在籍していましたがその日から人生論に関する古典や社会系の本にのめり込みました。本をちゃんと読むようになったのはここからです。最初は手当たり次第で、日本の思想家なら亀井勝一郎、河合栄治郎、三木清、倉田百三、阿部次郎。もっとも、この人たちの本を読んでもあまり魂を揺さぶられるような経験はありませんでした。

考えてみると、この人たちが実際に感銘を受けた西洋の原典を読まなければ本当のところがわからない。近代西洋の思想家ならモンテーニュやショーペンハウアー、その源泉はギリシャやローマの古典なので、学生時代はもっぱら原典を読みました。それも語学的な興味もあってドイツ語で読むことが多かったですね。アメリカ留学後は英語でも読むようになりましたが。

——どんどん辿って読書を広げていく感じですか。

知りたい情報に出会うために、読んだ本に引用されている資料や参考文献を見ます。友達の友達は友達、信頼できる友達なららその先も信頼できます。この新書(『科学と宗教の闘争』)は1968年刊なので書いてある参考文献はさらに古くなりますが、気になったら探して読みます。

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▲参考文献には絶版本も多い

——新しい本はネットや書店で検索しますが、古本はどうやって探すんでしょう。

私が使っているのは アマゾンの古本サイト「日本の古本屋」という古書データベースです。探している本はだいたい見つかります。高いときもあるし、安いときもある。高いと3万円くらいしますが必要であれば泣く泣く買いますね。大学に勤めていたときは図書館に行けば見られる本があったんですが、今は自分で買っています。

昭和40年代、50年代の良い本が古書で100円とか300円になっているのは魅力です。記憶が悪くて同じ本を2冊買うこともあるんですが、「ここで逃したら次は手に入らない」と思うとつい買いたくなります。

——書評や口コミは参考にしますか。

私の読書というのは「知りたいことがあるから読む」のが基本です。だから世間で有名だからという理由で本を買うことはほとんどありません。誰かが推薦したから読むとか、書評があったから読むというのはパッシブ(受け身)な読み方です。

講演や企業研修で「ピンポイントの問題をプロアクティブに解決しなさい」とよく言います。ピンポイントというのは、たとえば「宗教を知りたい」と思ったらもう少し的を絞ること。宗教にはキリスト教や仏教やイスラム教があってみんな違います。その中でいったい何を知りたいのかを突き詰めていくこと、これがピンポイントの意味です。

たとえば「儒教を知りたい」と思ったとして、その中で何を知りたいのか、さらに絞ります。たとえば「儒教はいいことを言っているのになぜ中国や朝鮮は儒教でうまくいかなかったのか」、儒教の悪い点は何だろうという疑問に絞る。儒教全体という漠然とした疑問よりもっともっと絞った疑問を読書のドライビングフォース(推進力)にするんです。

この意識を持って図書館や本屋へ行くと「儒教はどうしてうまくいかなかったのか」という本を探しますよね。そうすると求めている本がわかります。タイトルからあたりをつけて、パラパラとめくって知りたいことが載っているかを探し、欲しい情報が書かれていると思う本を買います。私の図書館利用は、もっぱら欲しい本を探すために利用します。欲しい本が見つかれば、金額にもよりますが、たいていの場合Web で探して購入します。

今までの私の経験からすると、2、3行気になるフレーズがあったらその本は買ったほうがいいと思います。「こんな2行くらい」と思って本棚に戻すと、絶対そのフレーズは思い出せないんですよ。イライラしてしまう。だったら買ったほうがいいです。

私の場合、本は疑問を解決するために読みます。答えを探すというより自分の考えを作るために読む。研究のための読書と楽しみの読書は一緒です。ピンポイントの疑問があったら本を読み、調べていくとまた知らないこと、わからないことに出会う、本を探して買う。そのくり返しです。これが私のいう「知のパラドックス」、つまり「知れば知るほど知らないことが増す」ということです。(続く)

次回:今の人文系研究者は“知的武器”を持っていない

麻生川静男さんインタビュー  / 2 / 

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