[書評]『なぜ時代劇は滅びるのか』春日太一

[書評]『なぜ時代劇は滅びるのか』春日太一

先日開催した「本屋で本を3冊買う会」で最初に購入した本です。春日さんの本を読むのは2冊目。最近NHKオンデマンドやDVDで昔の時代劇(主に大河ドラマ)を観る機会が増えました。でも熱烈に「観たい!」と思うのは20年前30年前の作品ばかり。

正直言って近年の大河は観ているのがつらい。初めの数回は我慢して観てみるけれど「ああっ、だめだ無理」と脱落してしまう。そのあたりの自分が持っている不満やモヤモヤが書かれているんではないかと、期待して買いました。

春日さんは2008年に『時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち 』(集英社新書)という本を出されています。この頃もすでに時代劇は危機に瀕していましたが「まだ何も終わっていない」という気持ちをぶつけた本だったとのこと。

でも今回は「なぜ滅びるのか」がテーマ。2008年から状況は変わらないどころかさらに悪化し、時代劇が死にきれないで苦しんでいる。だったら「時代劇を愛している自分の手で、いっそ介錯したほうが」という思いが出てきたそうです。『新潮45』の連載や『オール読物』などの論考に加筆、再編集してこの1冊になりました。

読了しての第一印象は「熱い、でも悲しい」。

筆致はとても冷静なんです。時代劇やドラマ作りの知識がない人でもわかりやすく、どんな人たちがどんなプロセスで作品を仕上げているのかスッと理解できます。同じ冷静さで「どうしてダメになったか」の構造や企業の事情、取り巻く人たち(スタッフや俳優、視聴者)の問題を取り上げています。

でも文章の端々に「時代劇って本当はこんなに面白いんだよ!」「こんな凄い人たちが作っていたんだよ!」という隠すことができない愛情が迸っていて、書かれている現状との落差が本当に悲しい。

視聴者から見える表層的な「ダメ」なところは、今と昔の時代劇を知っている人なら誰でも共感できると思います。「そうそう!」とうなずきながら読み進められる。でも、表に現れる数十年も前から実は構造的に衰退が始まっていたという話はちょっとショック。そうだったのか。

先日、大河ドラマ『徳川慶喜』を観たとき、出てきた人の所作が脇役の人まで美しくて気持ちいいなあと調べてみたら、多くが劇団や舞台で仕事をしている役者さんでした。本当に身についたものに「演技」を足す作業ですよね、時代劇は。

最近は座る所作ができないのか立ち話のシーンが多くあったり、変に現代的な台詞回しや仕草が目についたり、主人公が超人だったり、歴史を知らない素人でも「そりゃなかろうよ」と突っ込みたくなるドラマが増えました。期待してしばらく観て、我慢できなくなってだいたい途中までになっちゃうんですが。

どうしてそうなってしまうのか、いろんな事情が絡まっているのだと読んで知りました。帯にある「鎮魂歌」という単語にも納得。

ああ、個人的には田村正和や仲間由紀恵が出ていた2013年テレ朝の『上意討ち 拝領妻始末』は引き込まれたかも。脚本が自然で、出てくる人も品と芯があって面白かった。偶然チャンネルが合ったところから最後まで観てしまったのを考えると、ドラマとして面白い時代劇は作ろうと思えばあるんですよね、きっと。

でもそれが難しくなっている。また昔のを見直すことになっちゃうのかなあ。

なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)
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こちらの本もおすすめ。勝新の凄みだけでなく「自分の仕事への取り組み方」も考えさせられる1冊。今も迷ったときにめくります。

天才 勝新太郎 (文春新書)
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