[書評]『輸血医ドニの人体実験 科学革命期の研究競争とある殺人事件の謎』ホリー・タッカー
- 2013.07.30
- 更新日:2020.06.06
- 書評・評論
日経の書評で見かけて買ってみました。『輸血医ドニの人体実験 —科学革命期の研究競争とある殺人事件の謎』(河出書房新社)。今は当たり前の医療技術ですが、よく考えれば誰かが最初に行って、おそらくいろんな失敗をしながら現代に至るんですよね。その黎明期とヤバい失敗と、もっと面白いことがたくさん載っています。
はじめは、てっきりドニという研究者だけを追ったストーリーなのかと思っていました。でもこの本の面白いところは別の場所にもあります。特筆すべきなのは17世紀当時のヨーロッパ科学史、国との関係、パトロンの関わり方、街の細かい描写など時代が立体的に浮かび上がってくる構成です。
私は学生時代に日本史をやっていたので、世界史の重層的な関わりを追うのは苦手でした。同時代に並行して起こっている物事を比較したり、つなげてみたり、複雑でこんがらがってしまうんですね。
本ではいろんなものを対立で見せてくれるのでわかりやすいです。フランスとイングランド、王立と民間、都会と田舎、エリートと現場叩き上げの関係。「輸血」という大きな軸は貫きつつ、当時の医学界、科学未満の自然哲学界では何が起こって何を問題視していたのか。
今の常識とは違う土台に立っているので、近世と近代の狭間にあるヨーロッパについて何も知らなかった私はずいぶん勉強になりました。
もちろん輸血実験についても詳細に書いてあります。ちょっとグロいのですがあんまり想像しないようにして読み進めば大丈夫かも。最初は動物から動物への輸血、その後に動物から人間(!)への輸血へ。
検証方法や器具そのものが現代に比べると稚拙なので、どこまで正確なのか文献からもわかりませんが、これが当時の最先端技術と思われていたんですよね。で、この危なっかしい時代があったからこそ、今に至っている。
「輸血」をテーマにして科学をこんなに面白く読めるとは思いませんでした。寺西のぶ子さんの訳がとても読みやすかったです。
【インタビューライター 丘村奈央子】
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