[インタビューズ]日本身体文化研究所 矢田部英正さん 2/4

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日本身体文化研究所 矢田部英正さんへのインタビュー第2回(全4回)です。

非科学的といわれた「東洋の身体技法」を学問にする

大学時代は体操選手として活動されていましたが、身体の研究者へ転換したのはいつ頃ですか。

在学中から身体技法の研究をもっと深めたいという願望はありました。姿勢の訓練を通して、身体の構造的な強さと感覚的な覚醒とが同時にもたらされるような体験をしたので、こうした身体の使い方を学問的にも体系立てたいという志を持つようになりました。

東洋の歴史を遡ると、姿勢と呼吸の訓練を通して身心の調和を高めようとする試みがたいへん古くから存在します。インドのヨーガ、中国の道教、日本の神道や禅仏教でも、坐る修行法をとても大事にしています。しかし私が学生の頃は、東洋の身体技法について研究をしようとすると、先生方からは「そんなものは学問になるはずがない」と言われ、大方「非科学的で胡散臭い」という見方をされました。修士論文でもこのテーマに取り組みましたが、指導教官からは見放され、ほとんど独学で稚拙な論文を書いたと思います。

私が在籍していた筑波大学のスポーツ運動学研究室は、ドイツの現象学をベースにした人文科学的な運動研究をしていたので、本当なら現象学の手法を使って東洋の伝統的な身体技法を説明することも可能だったはずです。しかし現実は、調べる対象が「東洋」となっただけで、まったく会話が成立しなくなりました。

姿勢を整えると、運動の構造的な合理性、生理的な自然性、心理的な覚醒とを同時にもたらします。それはスポーツ競技に限らず、日常の動作から、労働運動、芸能芸術にかかわるあらゆる運動の基礎になり得るものです。姿勢を整えることから派生する多彩な世界は、日本古来の修行•芸道の世界では十全に展開されてきたのですが、その身体技法を研究するためには、当時は独りで模索する以外にありませんでした。

大学院を卒業したあとは就職されたんですか。

親戚が経営する医療法人で働きながら1996年に武蔵野身体研究所を発足させて、講演活動やワークショップを行ってきました。その頃、学会で知り合った哲学の教授が私の研究に注目してくれて、文化女子大学(現・文化学園大学)の博士後期課程への進学を勧めてくれました。あの学校は世界でも有数の服飾資料を持っていて、そこで和装と身体の関わりを研究して博士論文を書きました。在学中に国際日本文化研究センターでも研究する機会に恵まれ、碩学の先生方と出会う機会がありました。

その頃に書かれた学位論文が『たたずまいの美学』のもとになったんですね。当時は研究以外にどんな仕事をされていたんですか。

身体に関するワークショップや講演活動はこの頃から積極的に行っていて、自分自身の領域を形づくるために四苦八苦していました。子どもが幼稚園に上がる頃には、体操教室の先生を引き受けたりしていました。学生のときにも経験はあったのですが、「子ども体操教室」は指導の原点のような気がしています。専門的な体操競技ではなく、どんなスポーツにも展開できるような動きの基礎を幼稚園から小学校低学年の子どもたちに教えていました。

小さい子どもは呼吸器が発達していないので、十分に運動をさせないと手足の末梢に流れた血液を心臓に戻しにくくなります。よく運動させてエネルギーを十分に発散させた後に、順番を守ることや礼儀作法を教えると、集団生活のルールをスムースに守れるようになってきます。(続く)

矢田部英正さんインタビュー  / 2 /  / 

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