『本の読み方 スローリーディングの実践』平野啓一郎著 レビュー

『本の読み方 スローリーディングの実践』平野啓一郎著 レビュー

もうちょっと味わって本を読む方法があるよ、と提言している新書を読みました。
本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)
速読で「何冊読破!」と駆け足で読み進めるのは、どこかに「駆け足で行った!」と言っているのと同じだとたとえています。美味しいレストランを楽しむ時間も、景色と雰囲気に浸る時間もカットしていくようなものだと。
著者の平野啓一郎さんは、作家になってから読書の質が変わったといいます。一読者だったときよりも「書き手」を意識するようになった。なぜこの表現を選んだのか。場面設定が主題にどう引っかけられているのか。
本の中では基礎・テクニック・実践の3部に分けて平野式読書が解説されています。へえ、と思ったポイントをいくつか挙げてみますね。

◆ 多読だから知的生活を送っているとは限らない
書物が貴重だった時代は、現代よりも生涯で読み通せる本が格段に少なかったはず。でもカントやヘーゲルが無知で愚かだという人は誰もいない。情報が多い私たちが「昔より知的な生活を送っている」とは言えていない。確かに。
◆ 誤読を許容する、むしろ誤読歓迎
たとえば速読で「理解率70%」というとき、100%の正解が設定されていて、その7割を短い時間で理解できたという前提になっている。でも本には「正解がない」。この70%という言い方は解釈の多様性を否定している。
むしろ、自分が違和感を持った場所にこだわって考えて、自分なりの結論を考え出す過程のほうがより深く本と著者に関わることができる。同じ人でも時間を経ると読み方が変わることもあるし、著者が思わぬ場所で読者が迷ったりすることがある。それも醍醐味。
◆ 好きな作家の助詞と助動詞に注目
行ってみた、と行って「は」みた、では伝わるニュアンスが違う。作家は助詞や助動詞に細心の注意を払って表現しているので、そこから生まれる意味をじっくり考えると面白い。

ほかにも、「声を出して読まない」とか「小説にはさまざまなノイズがある」などなど、気になるキーワードが満載の本でした。小説以外でも難しい言い回しを使う人なのかと思っていたので、池上彰さんにも通ずる分かりやすさにびっくり。
漫然と文字だけ追っていた読書が、ちょっと視点を変えるとどれだけ面白くなるのか。実践編では森鴎外やカフカの小説を取り上げて、どう読んでいるのか(これだけが正解ではないよと断りつつ)詳しく解説しています。同じ日本語でも何度も噛んでいくとこんな味になるのかな。
多読に疲れてきた人、本の読み方に迷っている人にオススメ。あと、書き手になりたい人にも役立つ見方が載っていました。なにせ作家さんの視点。

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)
平野 啓一郎
PHP研究所
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