[書評]『純喫茶へ、1000軒』難波里奈
カウンターで注文して品物を受け取る方式のカフェが昔からちょっと苦手です。どうやって言えばいいのか、どのタイミングで席を取ればいいのか、どこで受け取るべきかなど、しきたりに沿うのが自分にとってハードルが高い。入るとすれば、多少値段が高くなるとしても、つい人が給仕してくれる喫茶店を選んでしまいます。
純喫茶本、2冊目が出た!
難波里奈さんはその中でも昭和の香り漂う純喫茶に通っている方です。1300軒という訪問リストから1002軒を選んだ本が出ました。
この本の裏側には、難波さんが足繁く通った純喫茶情報の蓄積があります。それはすでにブログとして公開されていて、知っている方も多いかもしれません。
難波さんは東京で会社勤めをされているのですが、会社帰りや休日はまず純喫茶へ。ブログはその情報の集大成で、マスターとの会話や特色ある内装、名物メニューなどが心地よい描写で紹介されています。
いやあ、この文章がとても優しい日本語なんです。取り上げる視点や捉え方に難波さんの人となりが表れていて、この文章に触れたくてブログを訪問していたというのもあります。感性のアンテナの見本になるというか。
もちろん純喫茶情報もとても頼りになるもので、都心に出て時間が空くと「近くにいいところあるかな」とブログ内を検索することもしばしば。1冊目の純喫茶本の存在を知ったときは「おおっ」と思って即買いしました。
本には喫茶店の住所が載っているので、Googleのマイマップ機能を使ってリストを作ったりしました。地図上で一目瞭然になるので結構便利です。
これよりもさらに密度が濃い2冊目が出ると知り、先行発売が行われるイベント「純喫茶ナイト」に参加して早速購入してきました。
1002軒のリストが圧巻
まず手に取ってみてカバーの紙質が気持ちいい。懐かしさのある色づかいとカバーのざらざら感と、程よい軽さ。たぶん日常で持ち運んでも負担にならない本です。めくっていくと、難波さん撮影のレトロな雰囲気漂う写真がパッと目に飛び込み、次のページにはその写真の解説文が綴られています。
気に入った写真の解説を辿るのもよし、店舗情報から知っている地名を抜き出して読んでもよし。圧巻なのは巻末にある1002軒リスト(!)です。日本全国、難波さんが訪問してピックアップしたお店がずらりと表になっています。思わず出身地のところを探してしまいました。
「純喫茶ナイト」で出版元であるアスペクトの編集者さんもおっしゃっていたのですが、この表には1行ずつ難波さんの紹介文がついていて、それが1002通り違う褒め言葉で書かれているのがまたすごい。文章書きとして、それを読み込むだけでも得るものがたくさんあります。
本をプロデュースされた石黒謙吾さんの純喫茶愛コラムも載っていて、このお二人だからこそ妥協のない形で1冊が出来上がったのだなと思いました。
(今回マイマップに全部載せるのは無理…)
難波さんとお会いできた「純喫茶ナイト」
ブログのほかにtwitterやFBでもやり取りはさせていただいていたのですが、まだ難波さんにお会いしたことがありませんでした。出版記念イベントでもある「純喫茶ナイト」はチャンス。これは参加しなきゃと申し込んで、7/29に荻窪の「6次元」へ行ってきました。
イベントは大盛況で、申し込みが多いため急遽2部制に変更されたほど。イベント参加者は先行で本が買えるほか、特製しおりとマッチ箱もいただけました。うお、箱の芸がいろいろ細かい…。
あと写真には撮れなかったのですが、トーストとゆで卵が食べ放題、それにクリームソーダもつくという豪華版です。難波さんにもご挨拶ができ、本にサインをいただいてきました。とても字がきれいな方でした。
トークではブログ「全国ノスタルジー探訪」の赤祖父さんと純喫茶について裏話などを展開。ここでしか明かされない意外な武勇伝(といっていいと思うのだけど)も披露されました。
印象に残ったのは、難波さんが「もうそこはマスターの世界なので」とおっしゃっていたこと。一度純喫茶に足を踏み入れたらマスターが作り上げた世界にお邪魔したのと同じ。何が起こっても驚かないし、多少理不尽なことがあったとしても「ああ、こういうお店なのだな」と楽しんで帰ってくるそうです。
内装やメニューに注目するだけでなく、本当にどっぷり別世界を体験して、そこにいる人との会話や時間を楽しむために行かれているのだと改めて思いました。すぐ行ける身近なトリップ先というのもうなずけます。
そのスタンスは本にも色濃く表れています。お店へのリスペクトが先にあるので、読んでいても気持ちがよいし、行ってみたくなるんですねきっと。純喫茶に興味がある人にもそうでない人にも、おすすめの1冊です。
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