[書評]『役者は一日にしてならず』春日太一
映画史・時代劇研究家 春日太一さんの新刊は迫力の装幀。名優16名の顔がモノクロで並んでいる。開くと赤と黒で彩られたページ。本全体が硬派な雰囲気を醸していて格好いい。1冊だけど、1冊以上の重みがある本。ずっしり。楽しみにしていた本で手元に届いてから半日で読み終えた。
最近よく昔の大河ドラマを見ている。主役を引き立てる脇役や、憎々しい役柄を存分に演じている人、ドラマによって二の線と三の線を自由に行き来している人など、ベテランさんの演技には毎回舌を巻く。そうなるまでには絶対積み重ねがあって、挫折も苦労も経ているはず。
何となく「経験の層が厚いんだろうなあ」とは思うものの、トーク番組や記事に頻繁に出る方々ではないので、謎が多い部分だった。この本にはその核心、経験の「層」に何が含まれているのか、どんな経緯で「層」になったのか、16名分が詳しく書かれている。
年齢順、1940年代生まれの人たちが多い。私から見ると親世代。共通しているのは、皆さん「身体と感情をコントロールする職人」であり「家族や生活、悩みを抱えた一人の社会人」でもあるということ。
役者さん同士でどんな間合いをはかるのか、舞台上でどんな気を遣うのか、そのために自分の何を鍛えるのか。身体表現の奥深さを垣間見ることができる。でもやっぱり「食べていかないといけない」という問題にも直面していて、それぞれのバランス感覚で両立している。
読みながらその役者さんが出ていたドラマや映画を思い浮かべ、書かれているエピソードと比べながら「そうだったのか」と思いつつページを繰る。挙げられている作品をもう一度見直したら面白そう。
インタビューしている春日さんの知識もすごい。50年代、60年代の映画やドラマ、演劇を網羅して、当時の芸能界の裏表の背景を共有する。役者さんたちも「ああ、あのときは」と安心して話している。
俳優座や文学座、民藝などの劇団システムについてはよく知らなかったので、どんな流れで新人が世に出て行くのかもこの本で知った。昔は半年間の養成期間で日舞や立ち居振る舞い、乗馬などのトレーニングを積んだらしい。劇団出身でない人も現場で時間をかけて教わっている人が多い。だから今も所作が美しいのか。
タイトル通り、本当に「一日にしてならず」。こういった芸の競演を楽しめるのはあと何年かになってしまうのかなあ。
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