[書評]『「読ませる」ための文章センスが身につく本』奥野宣之

[書評]『「読ませる」ための文章センスが身につく本』奥野宣之

IMG_3789.JPG1冊のノートにまとめるシリーズ本で有名な奥野宣之さん。最新刊は『「読ませる」ための文章センスが身につく本』です。奥野さんは文章でも話し言葉でも物事の例えがうまく、リズムある文章で楽しく読ませてくれる作家さんです。その秘訣が1冊にまとまっているのだから買わずにはいられません。

もともと文章が苦手な人は「文法が…」とか「てにをはを…」という話になると余計取っつきづらいもの。でもこの本は身近な例を挙げたエッセイとして面白く読めて、すぐ応用できます。

第1章第1講と第2講は文章を書く人なら必須。これを徹底するだけでも文がグッとスリムになって読みやすくなります。たぶんプロのライターでも最初の推敲はここからではないでしょうか。

 反論や異論だけでなく、的外れなツッコミが来るかもしれないとしても、あえて受け入れましょう。それより文章の明朗さのほうが大切です。
保険はかけず、潔くしましょう。そんな「捨て身」の姿勢が、読み手に響くのです。P.34

「「捨て身」の姿勢」とか「味が濃い文章」とか、めざす文章の例えが本質を突いていて「そうか」と納得します。奥野さんの本は、1章につき何度かそういう表現に出会うんですよね。

この本の特徴はさまざまな作家の文章も例として載っていること。有名な大作家より読み継がれている堅実な文章家をあえて取り上げた、と「おわりに」で述べられています。

嵐山光三郎や姫野カオルコ、浅羽通明などに混じって遠藤周作とか。これを並べるだけでも「世の中にはいろんな文が流通してるんだな」と実感できます。

もう一つ、この本のすごいところを挙げるとすれば、悪文例である「モヤモヤ文章」の精度の高さです。世の中のライターさんはそれぞれ流儀があって「こうするといいよ」と教えるだけの何かはあると思うのですが、うまく伝えるには上手な「悪文例」が必要です。

ただ「こうするといいよ」というのではなくて、悪い例を出して「ここをこうすると、ほら良くなった」と見せるのが一番。でも、最も効果的に見せるための悪文が実はうまく作れないのです。

いつも「巧く書く、良く書く」としか考えていないところを改めて悪く書く、それも言いたいテーマに合致した「ほどよい悪文を書く」というのはかなり高度な技だといえます。

この本はそれを面白おかしく実現していて、奥野さん的固有名詞の遊びとか、悪文だけどユーモラスだとか、味付けまでされている。うまい「悪文例」なので説得力が大きい。

まず見出しにあるテーマについて勉強になりますが、書かれている筆致そのものも十分な教材です。だから何回読んでも面白い。たぶんまた読みます。

「読ませる」ための文章センスが身につく本

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