◆本は、中身だけで存在するわけではないから。
- 2011.02.11
- 更新日:2018.05.02
- ライターの捉え方
先日、Googleブックスの佐藤陽一さんの記事についてブログに書きました。
そのコメントで、翻訳家でもある水野麻子さんから2010年9月日本記者クラブでのお話をまとめたPDFをご紹介いただきました。どうもありがとうございます!
佐藤さんのスピーチ内容が速記録で残されていて、15ページあります。
http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2010/09/r00015133/
書籍をネット上で検索・閲覧できるシステムを作ろうとしているGoogle。その意義と目標としている「利用のされ方」について述べられています。話した内容をそのままテープ起こしした文書なので臨場感があって面白いです。
でもやっぱり、最初に感じていた「違和感」は拭われませんでした。「いいのかな、そっちの方向に収斂されていって」という思い。
現状では、欲しい情報をその本が持っているかどうか、「検索」するのはだいたい目次やあとがき、解説文、ぱらぱらとめくったときに飛び込んでくる文字くらい。Googleは全文を登録して、欲しいキーワードにヒットしたもの、関連すると思われるものを逃すことなく拾えます。そこが最大のメリット。
例として「状態名詞」という単語や「まちつけ」ということについて調べたい人がいたら、と挙げられています。どちらも本の内容が全文登録されていないと引っかからない単語だそうです。Googleのサービスなら、その単語を載せている書籍を見つけ出すことができる、必要な人がもっと深い知識を得られる。うーむ、確かに。
話は「検索してヒットした本をどこまで見せるのか」「既存の紙媒体への興味をそこからどうつなげるか」「ちらっと見られている本ほど購入されている」「消えていく本も残せる」と続いていきます。データ化と検索の利便化はGoogleブックスの大きな役割であることは否定しません。
でも一番気になるのは「検索」を軸に書籍があることでした。まず「検索」しないとヒットしません。
それはどういうことかというと「自分にとって予期しない出会いが極端に減る」ということです。先ほどの「状態名詞」や「まちつけ」も、その単語を本より先に知っていないとGoogle上では見つけ出せません。
アマゾンを利用している方なら知っていると思いますが、ある程度本を買っていくと「おすすめ」として自分が好みそうな本が最初に並び始めますよね。今まで自分が「検索」してきた履歴から判断されるわけです。一見便利で世界が広がりそうではありますが、自分が連想した範囲から抜け出しにくいシステムでもあります。
こないだ、大阪・梅田にオープンした「丸善&ジュンク堂」(レポートはこちら)で痛感したのですが、本は中身だけで存在するものではないんですね。構成もあるし、表紙の文字の配置や色遣い、選ぶ紙質、判型、厚みでも本が持つ個性が変わります。それを含めて「1冊の本」。
ある本を買いに行ったけれど、ちらっと見かけた表紙の写真のパワーに惹かれて手に取った。それを買うかもしれない。買わないかもしれない。でもペラペラめくったときに初めて出会う単語があった。それが頭に残って、別の場所のきっかけで思い出した…。
視覚と触覚、タイミング、経験を絡めた「不意の出会い」はいくらでもパターンが作れます。検索ありきだと、こういう出会いはほとんどなくなります。なぜなら、自分が連想しないと発動しないシステムだからです。
自分が思いついたことに関しては最強の検索力を持つGoogle。でも、道を外れることが難しい。「道草」という単語を使うことがありますが、そういう遊びや無駄がどんどん削がれていくようであんまりどっぷり浸かりたくないなあ、というのが正直な気持ちです。
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