[書評]『SUPERな写真家』レスリー・キー 著
先日の「本屋で本を3冊買う会」で手に入れた1冊。芸術・美術のコーナーで面陳(立てかけて表紙を見せて陳列)されていて、表紙と本編が同じ紙に印刷されているシンプルな装丁はかえって目を惹きました。シリーズ刊行のうちの1つなんですね。
レスリー・キーさんはシンガポール生まれの写真家。人物を生き生きと写し出すポートレートは数々のファッション誌の表紙や特集を飾っています。ノンフィクション系のテレビ番組で初めて動く彼を見て、そのとき「なんてエネルギッシュな人なんだ」と名前を覚えました。
人懐っこい感じというんでしょうか。高飛車な写真の大家ではなくて、撮ることと目の前の人が大好きで、いい瞬間を捕まえずにはいられない少年のような人というか。
撮る写真も被写体がとても自然に躍動していて、ついじっと見てしまうんですよね。どんなスタンスで撮っているのか、そもそもどうしてこういう写真を撮れる人になったのか、興味がありました。
本は2013年2月の彼の逮捕から始まります。男性器の写真を公開したとしてわいせつ図画頒布の疑いで拘留され、その一連の騒動が詳しく書かれています。印象的なのは、彼はいろんな文脈からその写真に至るまでのアーティスティックなポイント、社会的な影響、前例の有無を話そうとしているのに、警察側は決め打ちで「わいせつなものを撮った」という1点しか見ようとしないこと。
どちらも仕事といえば仕事ですが、こんなにスタンスが違う状態で何かを理解してもらおうというのは難しい…。
解放された夜に今までをふり返る形で彼の生い立ちが紹介されます。シンガポールの貧しいエリア出身であることや日本の文化に癒されて育った話は意外。そうなのかー。憧れの日本に来るまでの紆余曲折を知ったあとは、あれだけ1セッションにエネルギーをかける彼のスタンスがわかるような気がしました。
よい意味でガツガツ。ともすると避けてしまいそうなガツガツが彼の基本です。10代の頃から、経験・選択するすべての物事のベクトルが「写真」に向かっている。本の後半は奇跡のような出会いが重なって今のポジションにつながっていくのですが、納得します。ああ、これだけのことをやってきたから結果になってるんだなと。
あと「売れる」よりも「作りたい」を優先すると著名な写真家さんでも費用が持ち出しになるんですね…。人に言われた表現だけでご飯を食べる方法もありますが、彼は妥協しません。だから細部まで隙がないんですね。いや、写真全体の印象は大胆だったり楽しげであったりなんですが、皺一つムダにしないようなイメージ。
被写体と向き合うセッションを、本では「ジャーニー(旅)」と表しています。ああ、たしかに。旅に出ると全身で新しいことを吸収しようと思うし、アンテナの感度が上がります。それを仕事で毎回やっている。
写真家の本ですが9分5厘は文字です。でもあの写真の裏側にあるものがたくさんわかりました。
【インタビューライター 丘村奈央子】
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