[書評]『恋文讃歌』鬼塚忠 を読みました

[書評]『恋文讃歌』鬼塚忠 を読みました

20130408-093945.jpg作者の祖母へのインタビューをもとに組み立てた純愛小説『恋文讃歌』。作者の分身である主人公の生活から始まり、祖父の危篤をきっかけに祖父母の波乱に満ちた人生を振り返っていく構成です。鹿児島、北朝鮮、シベリアが舞台。そして「シベリアから届いた数字だらけのラブレター」が全編を貫く思いとして存在しています。

現代から始まる物語では、主人公の祖母・テルと祖父・達夫は人生の終盤にさしかかるお年寄りとして登場します。でも彼らが出会った10代の頃の描写が始まると、急に彩りが鮮やかになり浮き立つ気持ちが読み手にもうつってきます。

ただ、2人がどんな波乱に巻き込まれるのかを知っているだけに余計に悲しい。この本のいくつかのレビューでは「最後のラブレター解読」で涙が出てくる人が多いようなのですが、私はかえって一番幸せな時期の描写で泣けてきました。

物語では戦争によって引き裂かれてしまうカップルが何組も出てきます。生きて戻るだけでも大変なことで、私たちはそのあとの幸運な命として存在しているのだなあと改めて思います。読み終わって、顔を上げてから考える小説かもしれません。

旦那さんの祖父もシベリア帰りです。そして同じように通信兵だったそうです。以前、3時間くらい話を聞く機会があって「○月○日にどこで戦闘があった」「北海道から○日に船が出た」「こんな死に方をする同僚がいた」というのを事細かに覚えていることに驚きました。そしてすべてを達観して(関西の人のせいか)冗談も交えながら。

主人公が最後に記している前向きな感覚は、心当たりがあります。

恋文讃歌

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