書き直せと言われたらどうする?

2019年11月10日

ばら色タイムカプセル』という小説を読み終えました。
書いたのは、2006年「第9回坊ちゃん文学賞」で大賞を受賞した大沼紀子さん。受賞前からすでに脚本家やフィクションライターとして活躍していました。
彼女が多くテーマに据えるのが「家族」。それも正統派の家族ではなくて、どこかずれて世間的には家族と認めない人もいるような、ある意味変形した「家族」を扱います。
今回の主人公は13歳の家出少女。迷い込むのは薔薇の花が咲き誇る老人ホーム。一筋縄では行かない人たちの事情が絡み合った、新しい距離感の「家族」が示されています。
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実は、彼女とは10年来の知り合いです。フィクションを書き始めた頃から見ていて、驚いたことがあります。

それは、どんな変更要求でも「はいはい、わかりましたー」と引き受けてすぐ書き直してしまうこと。
シナリオであればディレクターや先輩ライターの指摘がいろいろ入って、原型がとどめられないケースもしばしばです。大沼さんの場合、「わかりましたー」と引き受けて相手のニーズも入れ込んで、それでいて「彼女の世界観」が崩れないまま新しい話になっている。
クリエイティブな仕事の人ほど自分の形にこだわります。でもそれで出来上がりが公開されなかったり、次の仕事につながらなかったりして自滅してしまう人もたくさんいます。彼女はその辺を割り切っていて、なおかつちゃんと自分が書きたいことを入れ込める人です。

細かいことにこだわらなくても世界がしっかりできているなら大丈夫。力量と自信があってこその書き直し。
自分の仕事で書き直しが発生したときは、いつも彼女のスタンスを思い出します。それが先方のニーズならば、難解なパズルを解くようにどんな言葉でも紡ごう、と。
大沼さんの筆致は、どんどん話に引き込むテンポと小さいけれどユーモラスな描写が特徴。丁寧な日本語と投げやりなマインドの混ぜ方がいつも面白い^^ 色鮮やかな装丁は気持ちを晴れやかにしてくれます。
ばら色タイムカプセル
ばら色タイムカプセル
4年前の「坊ちゃん文学賞」の受賞作も、自分の中にある温かく深い気持ちを確認できます。
ゆくとしくるとし