「話せばわかる」は無理

「話せばわかる」は無理

コーヒーカップ アイキャッチ用いろんな場面で「話せばわかる」という言い方を聞きます。個人的には、それが当てはまるときと当てはまらないときがあり、割合としては後者が多いんじゃないかと考えます。その感覚の土台は中国留学時の出来事にあります。

10年ほど前、私は中国の大学に付属している語学院に留学していました。留学生の国籍は日本と韓国が半々くらい。当時私は30歳近く。大学の交換留学で来ているメンバーが多く、平均年齢はたぶん22、3歳という構成です。

半年に1回くらい学校主催の遠足があり、有志は参加することができました。私が行ったのは内モンゴル遠足、30代半ばの中国人の女性ガイドさんがつきます。部屋割りは同世代で固められて、私は50代日本人女性とガイドさん、私、という3人部屋になりました。

そのメンバーだと私が一番ぺーぺーなので自然と気を遣います。特に日本人女性は親世代のようなものなので「粗相があってはいけない」とかなり緊張していました。

たとえば布団を使ったらちゃんと畳んでおこうとか。洗面所を使ったら髪の毛が落ちていないようにしようとか。自分の荷物は散らからないように片づけながら使おうとか。

3人での宿泊は1泊だったので、出発の朝はつつがなく終えられた安心感で少しホッとしていました。

そんなとき、洗面所に入って。

「!!!」

洗面台の水道口下のボウルに、わしゃわしゃの髪の毛の塊が! 両手ですくえるほど、よく女性用部分ウィッグのCMで見かけるくらいの量です。

「うわっ」と思わず声が出て、部屋に戻って確かめてみました。すると女性ガイドさんが「私が捨てました」と。捨てたー?!

自分のブラシについていた髪の毛の塊を取って、ボウルに捨てたとのこと。ゴミ箱もあるのにと言うと「どうせ掃除する人が捨てるんだから同じ」とのこと。えええ。

まあたしかに一理はあります。どこにゴミを置こうが、私たちが退室したら掃除の人が来て全部キレイにしていくはずです。でもゴミ箱に捨てればいいわけだし、同じ部屋の人が見たときにどうかとか、このあとも人が使うことを考えるととか、何よりこの2日間で髪の毛を1本も残さないように気を遣っていた自分の苦労は何だったのかとか、いろんなことが頭をめぐりました。

この感覚を彼女にどうやって伝えるか。

日本人の衛生感覚はこれを許さないというのか、次に使う人へも気を遣えと怒るのか、ゴミ箱へ捨てない彼女の怠慢をなじるのか。

でも次の瞬間、無理だと思いました。彼女は何の悪気もなくムダ毛の塊を見えるところ(他人も使うところ)へポイと捨てられます。それでも良しとしてきた文化の中にいます。これくらい中国では大したことではない、ということもしばらく暮らしてわかっています。

言葉を尽くせば「へえ、日本人はそうなんだ」とは理解するかもしれません。だからといって彼女が「そうですか、すみませんでした、私の衛生感覚が間違っていました」と謝るとは思えません。謝る必要がない文化で育ったのだし、たぶんこの生理的な嫌悪感を実感でわかってもらえないからです。

このときにしみじみと「話せばわかる」は無理だな、と思いました。

「話せばわかる」という言葉を使うとき、自然と「私のことをしっかり伝えれば、私のことを理解するに違いない」という感覚があります。でも正確に言葉を考えると「あなたがしっかり伝えてくれれば、私があなたのことを理解する可能性も同じくらいあります」ということです。

今回の例でいうなら、ガイドさんが言葉を尽くして「ボウルにムダ毛の塊を捨てることは何ら悪いことではない」「生理的な嫌悪感は微塵もない」「だからあなたもやっていい」と私を説得して、私が「話してくれたのでよくわかりました!これから気を遣わずに世界中でバンバン捨てます!」と言う可能性があるかどうか。

…無理だなー。

「話せばわかる」という言葉が成立するのは、真反対の意見を聞いたとき「受け入れる可能性もあるかもしれない」とこちらも思えるときだけです。でも到底受け入れられない条件を(国外ならなおのこと)突きつけられるケースのほうが多いのではないでしょうか。

お互いに想像できる範囲の文化が大きく重なるときは有効だと思います。が、違う文化で暮らしていた人同士は無理です。話してもわかりません。そもそも発想の根っこが違います。

ただ、だからといって仲良くなれないわけではありません。「話してもここはお互いにわからないね」というのを共有して「違う部分があるらしい」と認識すればいいからです。違う部分を抱えるのは仕方ない。

そこをお互いに「こっちの考え方に染まれ」とやり始めてしまうと泥沼です。どうも巷でよく聞く「話せばわかる」には、この危険を孕んでいるような気がします。

 

人間関係を良くする聞き方セミナー ライターの聞き方をコンパクトに理解
人間関係がちょっとラクになる「聞き方」の基本 丘村の電子書籍 第2弾
書き方・聞き方のコツ無料PDF集 のべダウンロード1500突破!
企業OLがライターになるまで。(note/更新課金型コンテンツ)

■人間関係を良くする「聞き方」セミナー 開催しています

約90分、1回の受講で、仕事でも日常でも使える「聞き方」がマスターできます。話が途切れない、無理に装わない、自然な会話を楽しめるようになります。今までのやり方でうまく進められなかった人はぜひ。