モノを生み出す仕事004 大洋製器工業株式会社 藤本奈緒哉さん

大洋製器工業(株)は、海運や土木に欠かせない「吊る」「固縛する」「運ぶ」を安全に行う金具を製作する、1938年創業の老舗メーカー。貨物を吊る映像があれば、吊り荷とクレーンの間をよく見てほしい。オレンジ色の金具があれば同社の製品だ。

藤井さん写真藤井さん解説 荷物を積み降ろしするとき、水平を保つためクレーンと物体の間にいくつもの金具や吊り具が存在している。フックやシャックルなどの金物、天秤、ワイヤーのねじれを回転で直すスイベルなど。同社はこれら「吊るための一式」とアイデアで実績を上げ、海運業界から信頼を得た。現在は港湾に限らず、吊る業務がある企業ならどこへでも提案に行く。

藤本さんは同社で設計歴16年のベテラン。大学で金属工学を学んだあと、切削工具の設計する仕事に就いた。転職して営業職についたものの「やっぱり設計が面白い」といろんな吊り具を開発している同社に入った。

「シャックルやフックは昔からある形で、強度などのデータが揃っています。一から作るよりも現場の要望に合わせた改良をすることが多いですね。CADなどで図面を提出して、先方から数値のOKが出たらすぐ工場で製作できます」

変型ならではの知恵を絞る

設計が面白いのはオーダーメイドで作り上げる「別作品」だという。吊るのは四角いコンテナだけではない。同社には長さ16m、重さ30t以上の屋根を吊って運んだ実績やジンベイザメを吊って運べる技術がある。大阪梅田のHEP FIVEにある赤いクジラのオブジェは、同社の金具で空中に浮かんでいる。

設計では吊る物体の形状や重さ・強度のほか、吊る金具の種類、特性や「吊り方」を考える。クレーンと吊る物体の間で起こりうることは全部吸収しなければいけない。

「一番難しかったのは卵形のオブジェを吊り上げる仕事でした。立ててはいけないんです。斜めのまま移動させて、斜めのまま台座に設置しなければいけないという条件で。真球だったら傷つけないようにくるんで運べばいいので実は簡単なんですが」

くるむと台座に差し込めない。斜めを保つのも難しい。繊維スリングの担当者から縮小サイズの卵の模型をもらって一度吊り上げ模型を作ることにした。考えた結果、ベルトを何本も使ってすくうように吊り、上を束ねる形状に。

「繊維スリングの担当者と切り貼りしながら『これでいけるんちゃうかー』と。実物サイズの吊り具を作るのに図面だけではわかりづらいので、その模型も一緒に工場に送られていきました」

設計者ごとに出る個性

設計部門には3人いてそれぞれ別の案件を持っている。相談することはあるが、経験や分野が違うので「同じ案件を扱ったら、似て非なるものができると思います」。基本構造が同じでも、使い勝手の工夫や細かい部分が人によって変わってくるという。

「私は前職で切削工具の設計をしていました。だから図面を描くときは機械との相性がよくなるように工夫します。また、オーダーメイドの製品であれば使う人の動線まで考えるので、楽しいですよ」

同社はこれからどんどん面白い物体を吊っていくという。そのたびに藤本さんたち設計チームが頭を絞って、新しい吊り金具と方法を編み出していくに違いない。




ふじもと・なおや
1967年、兵庫県生まれ。大学でチタン合金と酸素の関係について研究。他社からの転職で16年前から同社の設計開発部に所属。変更が多い現場には、出向いて設計をし直したり金具の再加工を手配することもある。

公式HP:大洋製器工業株式会社 http://www.taiyoseiki.co.jp/

2011/9取材

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