「読む」力をつけるために、何ができるだろうか。ライター目線で考えてみた。

「読む」力をつけるために、何ができるだろうか。ライター目線で考えてみた。

読解力に関する調査とその結果が話題になっています。国立情報学研究所で「人工知能(AI)でロボットが東大に入学できるか」を研究している新井紀子教授の調査について、ジャーナリストの江川紹子さんが解説したこちらの記事が2018年2月11日にアップされました。

この中で、AIは大量の情報処理に長けているものの「~以外」「~を除いて」などの意味を考えるのは苦手なこと、読解力が問題視されている人たちのスキルもこの“AI読み”と似ているという分析が書かれています。

“AI読み”はいわゆる斜め読みや飛ばし読みにも似ています。読み手は、並んでいる語彙から受ける印象や既存知識だけで内容の判断を下してしまう。語句をたどるとわかることでも、語句をたどらないので「~以外」などの条件を見落として答えを間違える。

これは自分でも心当たりがある読み方です。小説のように趣味や楽しみで読む日本語は隅々まで読むけれど、資料のように一気に処理しなければいけない日本語はポイントだけつかんで良しとしてしまう。

もちろんすべての文章を精読するのは難しいので、ときには斜め読みが必要です。かといってすべての文章を“AI読み”していたら本当に意味を吟味する場面ではミスが出ます。

うまいこと精読と斜め読みを使い分けられるのが理想ですが、問題はおそらく「必要な場面でも精読できなくなっている」点でしょう。

読解力についての問題提起はここ数年でいろんな媒体で見かけるようになりました。でもなかなか解決策を明示した記事はありません。悪い点はわかったけれど、じゃあどうすれば改善できるか。

私の場合、ライター仕事では意味の通った文章を書かなければいけないし、あまりにもピントが外れた話をしていたら信頼を失います。「そうならないように気をつけていることは何だろう」と考えて2つポイントを見つけました。

言い換えれば、どうやって飛ばし読みを防いでいるかです。

その1:文節で区切る

日本語の文章は「文節」で区切ることができます。

私は土曜日に学校へ行った。

私は/土曜日に/学校へ/行った。

こちらの国語の文法サイトでは「ネ」や「サ」を挟んで読んでも不自然ではないところが文節の分け目だと解説されています。

私は/土曜日に/学校へ/行った

うむ、大丈夫。キーボードから言葉を打ち込んで変換するタイミングは、たぶん「文節ごと」の人も多いのではないでしょうか。キーボードののショートカットでも「文節移動」というメニューがあるくらいなので、日常で日本語組み立て時に考える単位としてはメジャーだと思います。

この「文節」は、ライター仕事で文章を考えるときにも基本単位になっています。わかりにくい一文を直すときは無意識に文を文節で区切り、それぞれの意味を考え、どう係っているのか吟味して、引っかかりなく自然な読み方ができるよう言葉を入れ替えるからです。

「良い文章を組む」というパズルを解くために、1ピースの単位を「文節」にして、並べ替えたり足したり引いたりします。「文節」は見直し作業では一番扱いやすい言葉の固まりです。

したがって、確認時は「文節」を全部読みます。どの文節が大事か判断しなければいけないので、一つとして飛ばし読みができないのです。これがクセとして身についています。

紹介した記事に出ていた問題は以下でした。

 次の文を読みなさい。

アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

 セルロースは(     )と形が違う。

(1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素

課題文を「文節」で区切るとこうです。

アミラーゼという/酵素は/グルコースが/つながってできた/デンプンを/分解するが、/同じ/グルコースから/できていても、/形が/違う/セルロースは/分解できない。

「つながってできた」を分けるか迷いましたが、先ほどの「ネ方式」でいくと上記が自然なのでこうしました。一文が長くてややこしい。関係を図式で表すとしたらこうなります。実際は書きませんが、頭の中で「文節」を並び替えて整理している感じです。

アミラーゼという酵素

分解する

(グルコースがつながってできたデンプンなら)

分解できない

(グルコースからできてもセルロースは形が違う)

このあとに「じゃあ何を答えればいいか」を考えて回答します(実際、SNSから記事にアクセスして解いたときはそうでした)。提示された穴あき文は以下です。

セルロースは(     )と形が違う。

セルロースと比較して説明されているのはデンプンだけ。アミラーゼも酵素もグルコースも入れたら矛盾してしまいます。これらが「形が違う」とは一言も述べられていません。文章に答えが載っているようなものなので、意味の整頓さえできれば正解にたどり着きます。

正解:(1)デンプン

誤答は(3)グルコースが多かったそうです。「形が違う」という語句の一番近くにある他の名詞がグルコースだったからでしょうか。飛ばし読みをして意味を考えずに雰囲気で答えてしまうと、誤答になるのもわかる気がします。

その点、文章を「文節」に分けるメリットは、半ば強制的にすべての語句に目を通して意味を捉えなければいけなくなること。「どこで分けられる?」と考えるプロセスは飛ばし読みを許しません。単に近い選ぶとか、雰囲気で判断する読み方を防ぎます。

その2:校正の見方をしている

その1で述べたことは、頭の中で起こったことを振り返ったいわば結果論です。当事者は自分の時間をさかのぼって「こうだった」と言えますが、そのルートを知らない人、わからない人にとっては「それがわからん」という状態です。

では、どうすれば「文節」を気にする読み方になるのか。未経験から有効なのは、校正作業を経験すること、校正の見方をトレーニングして身につけることだと考えます。

校正はざっくりいうと2種類の読み方をして文章を直していく作業です。1つは語彙上の誤字や脱字の修正です。明らかな書き間違いを正していく。もう1つは意味上の修正です。読んで意味が通らない文や、修飾語が多すぎて混乱を招く文は、言葉を整理して伝えるべき文意が読み手にわかるようにします。

どちらの作業も絶対に読み飛ばしができません。文にある「単語・文節」を意識しないと正確な修正が不可能だからです。

しゃらしゃらっと軽く読むだけの“校正”は皆無で、自分の用法常識やうっかり「そうだよな」とスルーしてしまいそうな語彙まで疑って、一語一句をチェックするのが校正です。非常に面倒ではありますが、この見方を知って使えるようになったら読解力も作文力も今より必ず上がります。文中に存在する言葉の意味一つ一つを吟味するクセがつくからです。

これからでも読解力はつけられる、と思う

私が初めて校正スキルを学んだのは通信講座からでした。当時の仕事では使わなかったものの、今後の言葉に関わる仕事では役立つと思ってチャレンジしました。でも数年後にはめでたく仕事で使うようになり、今もその視点が役立っています。

最初はおそらく求められる課題が細かすぎて嫌になるかもしれません。プロの校正者は日々その細かさで仕事をしています。私たちも一度「嫌になるほど細かい見方」を経験しておけば、校正以外の文章作成や資料読解で生かせます。今回話題になった「読む」力の向上にもつながるのではないでしょうか。

現代文というと主人公の気持ちを推測したり作者の意図を考えたりする科目だと思いがちです。最近は感情や思索だけでなく日本語という言語に注目した学習が行われるべきだという意見が出ています。

校正もいわば日本語を上手に組み立てる技術の一つです。「書かれた文章が文法的・語彙的に破綻なく意味を伝えられているかどうかチェックする」技術。初心者向けでもいろんな学習方法が出ているので、ぜひ試してみてください。現役ライターからの一つのご提案でした。

 

※2/13 自分語り部分などを削除して記事を短くしました。

■2015年の記事ですが、こちらもどうぞ

書店内で平積み本や棚を撮影するのはOK? わからないので直接聞いてみました

■無料PDFをいくつか置いています

ライターの書き方・聞き方無料PDF集

■有料ですが、OLがライターになる間の地味な作業について書いたnoteマガジンもやってます

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