「うまい文章」を書く前にありがちな誤解

「うまい文章」を書く前にありがちな誤解

万年筆と便箋

良い文章といわれるものにはいろんな形があります。わかりやすい文章、伝わる文章、明快な文章、端正な文章、味のある文章など。「うまく書きたい」というのは誰にでも共通する目的だと思うのですが、そのプロセスでよくある「誤解」があります。どんな文章をめざす人でもちょっと気に留めてください。

■ 文章は「文章」だけで成立しません

もし何の予備知識もなく400字の作文を渡されて「添削してください」と言われたとしたら、一応それは可能です。誤字脱字のチェックが第1段階、文章のねじれチェックが第2段階、余裕があったら表現や語彙を変えたり、文の順番を入れ替える第3段階まで行えます。

できあがった400字は添削前より読みやすく、間違いのない正しい文章になるでしょう。でもそれが「良い文章」とは限らないのです。

なぜなら文章は「文章」だけで成立しないからです。それはどういうことか。

ブログでもサイトでも、書こうとする文章には「載せる媒体」があり「読者」がいます。文章を書いて載せるからには読者に伝えたい意図やねらいがあるはずです。「良い文章」にはそのための誘導や気遣いも含まれていなければいけないのです。

たとえば読者がプロフィールを知りたいと思って読む文に事業の説明が延々とあったらがっかりします。事業案内を読むつもりで目を通した文章だとしても、自社の自慢ばかりでは辟易します。文章の目的と入れ込む内容を考えないと「読んでもらう文」としては失敗してしまいます。

だから、文章は「文章」だけで成立しません。必要な背景と目的をうまく盛り込んだ上で整えて、初めて意味を持った「文章」になります。

「良い文章」は、文章でどんな効果をねらうのか、何を伝えたいのか、読みやすい文字数はどれくらいか、やむを得ずカットする項目は何か、最優先で載せるべき項目は何か、必ず吟味されています。その気遣いがない文章は「意味が薄い文字の羅列」です。

上記の例でいえば、自社自慢の文章をいくらキレイに整えても、いくら凄腕の校正者にチェックを依頼しても、意味がないのです。上辺を整えれば何とかなると思うのは間違いです。

■ 意味が薄くなってしまう例 その1

いつも「同じような内容が並んでいるなあ」と思う文章に新入社員の挨拶があります。志望動機や将来への意気込みなどが主な内容ですが、どれも同じような文章になってしまいます。

新入社員紹介のページを作る先輩社員としては「どんな新入社員が来たのか知らせたい」「所属する職場の人にも詳しく伝えたい」というねらいがあると思いますが、その効果は残念ながら出ていません。ねらいに合わせた掲載項目がうまく選定できていないからです。

「どんな新入社員なのか」を知らせたいなら、個性を前面に出すのが効果的です。思い切って仕事以外の趣味に絞って書いてもらうとか、最近読んだ本を取り上げてもらうなど、新入社員の負担にならない範囲で新しい切り口を提示するのも一つです。

入社してすぐではなく、1カ月後に改めて会社の印象を聞くという企画も面白いかもしれません。ありきたりの意気込みより気持ちが入った要望や視点が並び、読み手にも新鮮に感じられます。

書く材料が適切でなければ、何度校正しても意味がありません。いくら「御社の将来性」という言葉を「事業のグローバル化」に直したり、「ご教示ください」という言葉を「頑張ります!」に直したりしても、変えられるのは文章の上っ面だけです。

■ 意味が薄くなってしまう例 その2

企業の事業案内や個人プロフィールなども、書くことを選ばなければ読んだ人に何も響きません。

たとえばプロフィールとして「○○大学を卒業後、○○社に就職し○○という経験を積みました。このとき○○という資格をとって○○年に起業しました」と書かれていても、おそらく同じ職業の人が似たような経歴を辿っています。

これが鈴木さんのプロフィールだったとしても、名前を田中さん、佐藤さんに書き換えてもたぶん通用します。それでは意味が薄いのです。

鈴木さんには鈴木さんオリジナルの経歴があるはずです。卒業後なぜその会社を選んだのか、経験に対してどんな感想があるのか、それは役に立っているのかイヤな経験で我慢したのか、その資格をなぜ取りたいと思ったのか、起業のきっかけは何か、誰か見本はいたのかなど。

書くべきは上記の項目で、これを書き出したあとにやっと誤字脱字や文章の技巧チェックのような添削が生きてきます。要は「つまらない内容」をいくら「表現豊か」にしても意味がないのです。

■ 意味が濃い例

逆に、文が整っていなくても中身が濃い場合もあります。

過去にはリライトをお断りしたケースがありました。ある企業の社長さんが、ボーナスを出すときに社員の皆さんにメッセージをつけたいのでチェックしてほしい、と原稿を送られたのですが、私は一読して「リライトできません」とお返ししました。

たしかに文章自体は拙いところがありました。何度か同じ表現が出てきたり、語尾がまどろっこしいと感じる部分もありました。でもそれは社長さんが社員の皆さんを思って心を込めた文章で、拙いけれど伝わるものがあったのです。

文章校正という目から言葉や語尾を直すのは簡単ですが、そうすると社長さん独特の言い回しや口調、選んだ語彙が消えてしまいます。言葉と一緒に大切なニュアンスが失われるので、リライトをお断りし「ぜひこのままで出してください」とお願いしました。

あれは、文としては拙くても長年社長さんが培った言語感覚と社員への気遣いがあふれていて、社長オリジナルの「作品」といえるものでした。もし私が新規作成で依頼されてもあの文章は書けません。

同時に、文章はただの「上手・下手」ではないのだな、と勉強になった一件でもあります。

■ これはライター以外でも共通するプロセス

誰に向かって何を書くのか、その材料は適切に選ばれているのか。この吟味は職業ライター以外でも共通するプロセスです。ブログやビジネスレター、ビジネス文書も基本は同じです。

私は「聞き方」をセミナーにしていますが「書き方」をセミナーにしない理由はここにあります。いくら文章上をキレイに整えたとしても、土台が間違っていたらすべてが崩れてしまうからです。「書き方」より「素材の選び方」が重要で、必要な素材はケースによって変わります。

素材の選び方や訴え方が合っていれば多少下手な文章でも伝わります。むしろそれが味になるかもしれません。

文章は「文章」だけで成立するのではなく、内容に何を含むのかでまったく違う結果になります。ぜひ覚えておいてください。
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