ライターだけど見積もりや発注書にこだわる理由

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ライターで「お見積もり出します」とか「ご発注書の手配」という人はなかなかいないようです。正直、ざっくり頼みたいクライアントさんからは面倒だと言われることもありますが、なくす気はありません。どうしてそう考えるようになったのか理由があるんです。

初めは口頭やメール文で契約扱いに

ライターになる前は広告営業や編集の仕事をしていました。発注側になることもあれば、自分が受注してお見積もりや契約書を手配することもありました。ビジネスのやり取りなら当たり前の作業だと思っていたんですね。仕事なのだし。

でもフリーでライターをやってみようと思ったとき、調べるとどうもライター界は様子が違うらしいとわかってきます。雑誌などでは1ページいくらの単価が事前にわかればいいほうで、すべてが終わった後に振り込まれてから「この報酬だったか」と判明するとか、最初の約束からどんどん下がってしまった話などがわんさか出てきます。

それはちょっと怖いな、と思って、最初から料金を明示して「それでもいいですよ」と返事をくれたところだけと仕事をするようにしていました。

でも、まだその頃は「お見積書」「ご発注書」という明確な文書にはしていませんでした。メールでのやり取りを残すとか、信頼できるかなと思う人は口頭の約束だけという取引が多く、うまく回っていたので大丈夫だと思っていたのです。

そんな折、1件、未回収の案件が発生してしまいました。

中小企業の社長に直接金額や作業内容を確認して受注し、周りは仕事仲間の社長さんたちが聞いている場だったので、これを反故にされることはないだろうと安心してしまった案件でした。

納品してもお金が入ってこない…。うーむ。

忙しいとか、このプロジェクトはなくなったからとか、言を左右にしてまったく捕まらない状態に。あわよくば逃げ切りたいのだなという気持ちだけはヒシヒシと伝わってきます。

しばらく催促はしていたのですが、埒があかないと思い、一度少額訴訟をやってみることにしました。

少額訴訟に挑戦してみる

少額訴訟とは1回の期日で審理を終える特別な訴訟手続です。 60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り利用することができます。回収したい金額はここに当てはまります。

少額訴訟とは 裁判所ホームページ

チャレンジしようと思えば弁護士さんなどを立てずに自力でできるそうなので、勉強だと思って書類を揃えました。

訴える先はこの企業の法人格に。法務局に登記簿を見に行ったり、収入印紙を買ったり、地方裁判所に手続きに行ったり、手間暇はかかりましたが裁判の仕組みはわかって面白かったです。

でも、また問題が発生しました。この法人は社長が代わり「そんな仕事は知らないから一銭も払わない」という答弁書が届いたのです。それに加えて、少額訴訟で始めたにもかかわらず、訴えられたほうが通常の訴訟手続に移行してきました。

後から聞いた話によると、少額訴訟でも訴えられたほうはびっくりして「払います!」となることが多いそうです。が、今回は法人が不動産業に鞍替えするようなところだったので、裁判のことは私より詳しかったと思います。法人としても払わずに済ませたかったのでしょう。

通常の訴訟に移行すればこちらがびっくりして引き下がるとも思ったかもしれません。たしかにびっくりはしましたが、通常の訴訟で続けることにしました。

裁判所の常識、世間の常識、ライターの常識

本来なら1日の審理で済むところですが、普通に地方裁判所管轄の民事訴訟になったので指定日に裁判所に行き、裁判官と相手と三者で対峙することに。

法廷とはいいますが、実際は裁判所内の小部屋でした。相手方は誰も来なかったので、結局、私が一人で「こんなことがあったので大変だったんです」という話を証拠と一緒に説明。裁判官は事務官と提出された証拠を見て、事実確認をします。

「契約書はないんですか…?」
「なぜ契約しているのに契約書を作らなかったんですか…?」

裁判官が心底不思議そうに尋ねたこの言葉で「ああ、裁判所の常識というのがあるんだ」と思いました。

営業職でも編集職でも、契約書が存在しない取引というのは多くありました。大きな企業の支社と契約するときは本社からハンコがある書類をもらったりしましたが、商店街の親父さんやベンチャーの社長さんなどは「じゃあ頼むよ」という言葉が担保になることもあります。

ライター業はさらに契約書なんて存在は薄いもので、当時は契約書を作成して仕事をしているケースを聞いたことがありませんでした。「契約書なしで成立する取引が世の中の8割以上」という感覚が私のどこかにあったのです。

でも目の前の裁判官は、おそらく何百万や何億という金額の訴訟をたくさん経験していて、どの案件もスタートは「契約書」。

私の「いや、このケース以外でも契約書がない取引なんて世の中にいっぱいあると思いますけど…」という答えにも納得がいかない様子です。「なんでないの?」という表情から、ここにいる人たちにとっては「取引するなら契約書はあって当たり前」が常識なのだなと気がつきました。

やっぱりビジネス文書は大切

今回の訴訟はメールなどのやり取りから「契約は成立していた、仕事をして納品をした、でも支払っていない」という言い分がすべて通り、判決としては「未払い分を支払うように」という結果になりました。

しかし裁判官からは「契約書があればもっと明確なんだけどね」とくり返し言われました。たしかに。文書は本当に大切です。

この経験から、私は「お見積書」とその返送による「ご発注書」という文書を作るようになりました。ライターの世界では非常識なのかもしれませんが、法律の世界にかかってしまったとき自分を支えてくれるのはこの文書です。

ちなみに、この案件の料金はもらえないままでした。新しい社長は判決が出ても払う気がなく、それ以上を求めるならこちらが強制執行をするしかありません。執行には費用がかかり、案件の料金を考えるとそこまでは厳しいと判断したからです。これが数百万の話なら執行したでしょうけど。

裁判官からは「今回は騙されたね、気の毒だったね」と言われ、「ひょっとしたら法人じゃなくてこの社長個人を訴えたらよかったかも」とアドバイスまでいただきました。なるほどー。弁護士を立てるとおそらくその辺りの知識や戦略が変わるんだろうなあ。

結局、未回収の金額+収入印紙などの費用+出廷する時間+その間の煮え切らない気持ち、という損失が出た計算です。勉強にはなったけれど、もういいや(笑)

だから「お見積書」や「ご発注書」を面倒だと思われても、上記のようなケースを考えると「作らない」という選択肢が選べないのです。

ただ救いなのは、面倒だと思うクライアントさんよりも「金額がはっきりして助かる」と言ってくれるクライアントさんが多いこと。なるべくそう思ってくださる方に出会って、満足してもらえる成果物をお渡ししたいです。

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