ETV『永山則夫 100時間の告白』を見た

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昨日の夜、NHK EテレのETV特集で『永山則夫 100時間の告白』という番組をやっていました。ザッピングしていたら直前で見つけて、つい最後まで見てしまいました。100時間の精神鑑定時のインタビューを元に構成されています。

もうずいぶん昔の事件です(という私も生まれてなかった)。リアルタイムで知っている人は強烈な印象が残っているのかな。

永山則夫連続射殺事件(ながやまのりおれんぞくしゃさつじけん)とは、1968年10月から11月にかけて、東京都区部・京都市・函館市・名古屋市において発生した、拳銃による連続射殺事件である。 (Wikipediaより)

 

犯行当時19歳だったことや、この事件以後の死刑判決の基準になったことからよく話題になる事件です。私は「未成年者が4人殺害して死刑になった、死刑囚は獄中から本を出していた」という認識しかありませんでした。

今回の番組の核になった100時間インタビューは、裁判にあたって精神鑑定医が278日間かけて聞き出したものです。テープなのが時代ですね。生い立ちから事件、実母や家族についてまで及んでいます。

永山死刑囚の写真は見たことがありますが、肉声を聞くのは初めてでした。北の地方出身で、ゆっくり訥々と話します。とても4人を殺害して逃げていた人とは思えないほど冷静に自分を振り返っていました。

すでに精神科医と信頼ができていたのか、迷いやコンプレックス、人に知られたくない屈辱的な体験も含めて、落ち着いた口調で泣きもせず怒りもせず語っている。第一審で鑑定書が使われなかった、とあったので話は二十歳そこそこくらいで話していたのだと思います。でも今の二十歳はこれほど細かい語彙と描写で自分の過去を振り返られるのかなあ。

両親から育児を放棄されたような状態で、さかのぼっていくと実母も虐待を受けながら育っていた人でした。兄弟姉妹も不遇な人が多かった様子。誰かよい助言をくれる人や、小さくても前向きになれる成功体験があれば変わったかもしれません。でも彼にはなかった。4人の方の人生も1968年で終わってしまいました。

200日かけて鑑定書を書いた精神科医の方が番組に登場していました。でも裁判所で鑑定書が採用されなかっただけでなく、永山死刑囚からも「これは自分のことじゃないみたいだ」と言われて、この事件を機に鑑定医から臨床医になったそうです。この方もしんどい思いをしているんですね。

当時の裁判官の方も出てきて証言。どうも「死刑にする」というレールがあったっぽい。だから鑑定書が出てくると困るので採用しない理由を一生懸命考えたような話をしていました。死刑囚本人もどこかで「生きていたくない」という思いがあって自分の延命に有利になる鑑定書を否定したのかもしれません。

ただ、テープという形で生の証言が残ったのは事実です。どんな心理で、なぜ行動を起こしたのか。自己分析できない人の話は支離滅裂ですが、永山死刑囚は言葉を紡いで細かく述べています。やったことは決して許されないにしても、行き着く心理には説得力がありました。

人によってこのテープの意味は変わってくると思います。ここから貧困と少年犯罪のつながりを断とうとするか、裁判制度や精神鑑定のあり方を考えるか、死刑制度の是非を問うか。

私にとっては、あれだけの不遇な時代と衝撃的な事件について、冷静に日本語を組み立てられる精神状態と語彙の探し方が驚きでした。私なら思い出して行くうちにだんだん腹が立ってきて、絶対責める口調になりそう。つらい体験なら思い出した途端に泣いてしまうかもしれません。

彼の場合は、そんな感情を持つ余裕がないほど追い詰められて「無」で対応するしかなかったのか。人を殺めたことも他人事というか、間にベールがかぶさっているようです。言葉の感覚の鋭さ、朴訥な口調、事件の大きさが重なって、お湯の中で水を触るような不思議な印象が残りました。

 

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